進学案内資料

1. はじめに

酒井広文 研究室では、最先端レーザー技術を駆使した原子分子物理学に関する実験を中心とした研究を行っている。本研究室では、安易に流行を追うような研究態度を極度に嫌い、自分達が流行の発信地となるようなオリジナリティーの高い研究を行うことを目標としている。

 

2. 研究テーマ

相互に関連する以下のテーマを中心に研究を進めている。

 

(1)回転量子状態を選別した分子の配向制御

超短パルス高強度レーザー光と分子との相互作用で発現する様々な興味深い物理現象において、分子の配向依存性を明らかにするためには、配向度の高い分子試料を生成する技術を開発することが喫緊の課題である。分子の頭と尻尾を区別しない分子配列制御と異なり、分子の頭と尻尾を区別する分子配向制御における困難は、初期回転量子状態によって分子配向の向きが異なる点にある。この困難を克服するために、主として対称コマ分子の量子状態選択に適した六極集束器やより一般的な非対称コマ分子の量子状態を選択できる分子偏向器を用いて特定の回転量子状態を選択することにより、高い配向度を実現しつつ、分子配向制御の更なる高度化を進めている。

 

(2)全光学的分子配向制御技術の高度化

本研究室は、レーザー光を用いてミクロの世界の分子を操る研究で世界の先頭を走っている。直線偏光したレーザー電場と静電場を併用して有極性分子の頭と尻尾も区別した配向制御の実現に成功したのを始めとし、レーザー光の偏光を楕円とし、非対称コマ分子の3次元配向制御にも成功した。最近は、レーザー光のピーク強度付近で急峻に遮断されるレーザーパルスを整形し、レーザー電場の存在しない状況下での分子配向制御に成功したり、静電場を用いずに非共鳴2波長レーザー電場のみを用いる全光学的分子配向制御にも成功した。今後は上述した量子状態選別技術との融合を図り、全光学的手法で高い配向度をもつ分子試料を用意して、次に述べる分子内電子の立体ダイナミクス研究に適用する。

 

(3)分子内電子の立体ダイナミクスの研究

超短パルス高強度レーザー光と分子の相互作用により観測される高次高調波発生、非段階的2重イオン化、超閾イオン化などは、トンネルイオン化した電子が光の1周期以内で再衝突することによって起こる超高速現象である。また最近は、搬送波包絡位相の制御された数サイクルパルスも利用可能となってきた。本研究室では、(2)で述べた他のグループでは容易に用いることのできない配向した分子試料を用いることにより、光の1周期以内で発現する上記の諸現象に関する「分子内電子の立体ダイナミクス」を明らかにする研究を進めている。

 

(4)電子・イオン多重同時計測運動量画像分光装置を用いた分子中の超高速現象の研究

分子から生成される光電子とイオンの3次元運動量を多重同時計測できる装置を最近開発した。(3)で述べた現象を始めとする様々な現象の詳細なメカニズムの解明を目指す。

 

3. 研究活動

オリジナリティーの高い実験研究を行うためにはお金を出しても手に入らない独自の実験装置を作る必要があり、当研究室でも実験装置の製作には力を入れている。また、研究室では実験データの解釈などに関するディスカッションが頻繁に行われている。一方、実験結果と理論との比較を行うため、シミュレーションコードの開発にも力を入れている。

 

4. メッセージ

本研究室の研究テーマには化学との境界領域に位置するものもあるが、基本は原子分子と電磁場との相互作用に関する量子力学であり、当該分野はまさに物理学を学んだ者の活躍の場である。知的好奇心に溢れた若い頭脳を歓迎する。

 

  • 本研究室に関する情報は、ホームページや年次研究報告で得られる。また、具体的な質問や見学の申し込みなどは、酒井広文 まで(TEL: 03-5841-8394, E-mail: hsakaiphys.s.u-tokyo.ac.jp)。
  • 学部学生向けの解説

(1) 酒井広文、Journal of the Vacuum Society of Japan(真空)53、668-674(2010).

(2) 酒井広文、日本物理学会誌、61、263-267(2006).