(2)配列・配向した分子中からの高次高調波発生と超高速分子イメージングへの応用

(注)論文の被引用回数は、2016年7月9日現在のWeb of ScienceTM Core Collectionによるものです。

近年、配列・配向した分子中からの高次高調波発生と超高速分子イメージングへの応用が大変注目されています。本研究室では、配列した分子中からの高次高調波発生において、電子のド・ブロイ波の破壊的量子干渉効果の観測に初めて成功し(Nature (London) 435, 470 (2005)、被引用回数463回(高被引用文献に選定されました)、discussed in News & Views of Nature)、世界の研究者の注目を集めました。配列した分子中からの高次高調波発生における楕円率依存性に関しても初めて新たな知見を得ることに成功しています(Phys. Rev. Lett. 98, 053002, (2007)、被引用回数55回)。

また、最近では搬送波包絡位相(Carrier-Envelope-Phase: CEP)を制御した25 fsパルスを用いた配列した分子中からの高次高調波発生に関して新たな知見を得ることに成功した(Phys. Rev. A, 85, 051801(R) (2012))のに引き続き、CEPを制御した10 fsパルスを用いた配列した分子中からの高次高調波発生に関しても新たな知見を得ることに成功する(論文投稿中)など、世界で最も高度な高次高調波発生実験を推進しています。

今後の課題の一つは、電子のド・ブロイ波の破壊的量子干渉効果、分子内ホールのダイナミクス、複数の分子軌道の寄与や電子相関などの詳しい情報を得てより精度の高い分子イメージングを実現することです。そのためには、高調波の強度スペクトルだけでなく、位相スペクトルを観測することが不可欠です。最近、高次高調波で希ガスからイオン化した光電子の運動量を基本波用のレーザー電場で変調した光電子スペクトルを観測することにより高調波の位相スペクトルを評価する装置を開発しました。開発した装置を用い、ArとN2分子中から発生する高次高調波の隣り合う次数間の位相差を観測したところ、サイドバンド次数12の位相差は、N2分子中から発生する高調波の位相差がAr中から発生する高調波のそれよりも有意に大きいことを明らかにするとともに、それがクーロンポテンシャルの性質の差による可能性を指摘した(Phys. Rev. A 90, 063403 (2014))。 より高精度な超高速分子イメージング技術の開発により、配列・配向した分子中からの高次高調波発生の基礎物理過程の詳細が解明されることが期待されています。

また、配向した分子中からの高次高調波発生を実現し、その基礎物理過程を解明するだけでなく超高速分子イメージングの対象を配列した対称な分子から配向した非対称な分子に拡張することも重要な課題です。基礎物理過程の解明には、次に述べる電子・イオン多重同時計測運動量画像分光装置も有効活用する予定です。